未来のかけらを探して

一章・ウォンテッド・オブ・ジュエル
―15話・ここはどこ?ぼくらはぼくら―



上も下もわからないような真っ暗な空間。
ここは一体何なのだろう。妙にふわふわして地に足がついた感じはしないが、
かといって飛んでいるわけでもなければ落ちるわけでもない。
文字通り、浮いているとしかいいようが無い。
それに真っ暗ではあるが、そのところどころに大小の様々な光や泡が浮かんでいる。
「変なところだね……。あの大きな光の中とか、世界?見たいな物も見えるし……。」
「そうだねぇ。」
プーレが指差した大きな光の中には、青いビー玉のようなものが見える。
よく見るとその中には緑や茶などで彩られたものも見えた。
実はこれが地界なのだが、外からたやすく入る事はかなわない。
そして、見た目よりもはるかに大きい存在でもある。
「あっちにも2つあるよ〜。」
エルンが見つけた大きな光の中には、どちらも空がうす曇の良く似た世界がある。
それは魔界と悪魔界なのだが、やはり彼らが知るわけも無い。
ちなみにこちらも外からの進入は難しい。
いわゆる「世界」に入るためには、デジョンズなど特殊な移動手段が必要なのだ。
もっとも、次元の裂け目と呼ばれるものに巻き込まれれば話は別だが。
「ほんとだ……。ほんとになんだろうね、ここ。」
小さな光と大きな光がたくさんある不思議な場所。
こんなところは、今まで一度も見たことが無い。
「玉っころの巣ぅ?」
「たしかに玉っころだらけだネ〜。」
うんうんとパササがうなずく。
「ちがうと思う……。」
“ここは次元の狭間だな。知りもしない魔法を唱えるから……。”
ため息交じりのつぶやくをルビーがもらす。
どうやらここが何なのか知っているらしい。
「次元の狭間?」
“ええ。世界と世界の間にある、何も無い虚無の空間。
ここにあるのは時間と世界。それから、たくさんの小さな世界……亜空間ね。
光は色々な世界に、泡の一つ一つはいろいろな亜空間につながっているのよ。”
「キョム?アクウカン?むずかしくってぜんぜんわかんないよ〜。
ところで、どうしたらここから出られるかなぁ〜?」
サファイアが説明してくれたが、基礎知識に欠けるので意味がよくわからない。
とりあえず、色々な世界につながる光と、
色々な場所につながる泡以外は無い場所らしい。
「ここにいても仕方がないよね……でも、どこに行けばいいんだろう?
光がいろいろな場所につながってるんだよね。
うまくいけば、もとの世界に帰れるかも。」
“ここから地界に行くのは、魔法を使わない限り無理だぞ。”
エメラルドが、ボソッと耳打ちするようにつぶやいた。
プーレの希望的観測をこっそりぶち壊しである。
「そこにある泡に入ってみようヨ。なんか面白いことあるカモ〜?」
「え〜……、これ入れるのぉ?」
近くにある泡はプーレたちよりも小さい。本当に入れるのだろうか。
どう見ても入れそうに無いのだが。
「いいからレッツトラーイ!」
「え?あ、ちょっとパササ?!」
パササに突き飛ばされて浮かんでいた泡に入ると同時に、
ゼリー系モンスターを触ったようなにゅるんという粘っこい感触がした。
「変な感じ……。」
“亜空間に入ったからな。んー、安定してるから別に危なくは無いと思うぞ。”
中も真っ暗だったが、外と違ってあちこちにアイテムらしきものが見える。
見たことも無いレアアイテムや強そうな武器、難しそうな本などジャンルはさまざま。
中には食べかけの食料まであった。何なのかまったくわからない。
「おいしそ〜だな〜……食べちゃおっとぉ。」
ばくっと何のためらいもなく、エルンはキャメットを食べてしまった。
思わずプーレはギョッとするが、あえて何もいえない。
「食べ物とかはあるけど、真っ暗だからつまんないね。」
とりあえずプーレもギサールの野菜を食べながら、
これからどうしようかと他の2人に話を振る。
「う〜ん、どうしよっかぁ?」
「さっきみたいにさ〜、ぶつかったら出れるんじゃないの?」
エルンはなんとものんきな返事をよこした。
入ったはいいが、本当に出られる保証なんてあるのだろうか。
しかし何故か六宝珠が何も教えてくれないので、
今はエルンの言うとおりにするしかない。
「じゃあ……やってみよっか。」
壁と思しきところを探す。
真っ暗なのでどっちが「壁」なのか全然わからないが、
とりあえず来た方向には戻らずにそのままひたすら直進してみた。
が、どこまで行っても「壁」らしきものは見当たらないし、ぶつかることも無い。
「もしかして、はじっこがないトカ?」
「……そう、みたいだね。」
困った。これではどうやったら出れるのかわからない。
どうやら亜空間は、入るのは簡単でも出るのは難しいようだ。
だが、いつまでもこんなところにいるつもりは毛頭ない。
「どこかに出口とか……出られるものは無いのかな?」
「デジョンズの珠トカ?」
移動に便利な、あの魔法の珠を思い浮かべる。
確かにあれならここから出られそうだ。
「そうそ〜う、魔法の珠がほしいよねぇ。」
「こんなにたくさんアイテムがあるし、もしかしたら何かあるかもしれないよね。」
きょろきょろと見回すと、不思議なアイテムがたくさんある場所を見つけた。
デジョンズの珠はないが、ためしに一つ手にとってみる。
「あ、これナンダロ?カード?」
きれいな模様がびっちり書き込まれた、なかなか立派なカードだ。
表の中央には、不思議な文様がぽつんとかかれている。
“そうだな。……魔力を感じるから、これはマジックアイテムだな。”
「うわ、黙ってたんじゃなかったの?」
“気が向いたからな。”
またいつものように黙っていたかと思っていたルビーが、
いきなり口を挟んできたので少し驚かされる。
「へー……じゃ、これどうやって使うんダロー?」
「なでるとかぁ?」
エルンが聞き手を左右にゆっくり動かして、なでるしぐさをする。
「なでてどうするのさ……。」
いったいどこの世界に、カードをなでるという発想を起こす者が居るのだろう。
少なくともプーレは、エルン以外は居ないと思った。
「じゃあ、投げル。」
「え〜……そんな使い方しないと思うよ。
呪文とかをとなえるんじゃないの?」
プーレ自身、このカードの使い道なんて検討もつかないが、
それでもなでるよりはましな発想だろう。
「え、ナンテ?」
「……知らない。」
自分で言った癖にとプーレ自身思ったが、
見たことも無いアイテムに唱える呪文なんて皆目検討つかない。
うかつに変な魔法を唱えて、さっきのデジョンズみたいになるのはごめんだ。
「つかえないね〜。すてちゃえ〜ぃ!」
結局使い方がわからなかったので、ぽいっと高く放り投げて捨てようとした。
その瞬間、カードから光がカッと放たれる。
『わぁぁ!!』
プーレたちの姿はそこから消え、
後には、文字が消えて真っ白になったカードだけが残された。


放り出された場所は、まるでどこかの迷宮のようだった。
石造りの回廊が、ずっと奥まで続いている。
明るくは無いが視界が利かないほどではないし、
それにデジョンズを失敗して以来始めてのまともな場所だ。
雰囲気は得体が知れないが、少なくともちゃんと地面があるだけでまともといえる。
「いたたたた……。」
乱暴なワープの仕方だ。
しりもちをついた3人は、痛そうにしりをさすって立ち上がった。
結構痛いが、なんとかすぐに動けるようにはなった。
「とりあえず、奥にいってみヨ。」
「そうしよぉ〜。」
他に何かできることもないし、とは考えていない。
たとえ変な場所でも、道があれば進むというのは当たり前のこと。
ぴかぴかに磨き抜かれた床と壁は、走ったら滑ってしまいそうなくらいだ。
―だれがこんなにピカピカにしたんだろ……すごいなー。
人間やそれより高等な種族の造る建物に詳しくなくても、
柱などの細工の細かさなどから造るのにはかなりの技術を要するとわかる。
「わァッ!」
プーレが物珍しそうにきょろきょろしながら歩いていると、
軽く走るように前を進んでいたパササがびったーんと派手にすっころんだ。
「パササ、大丈夫ぅ?」
「ウン……でもスッゴク痛い。」
すりむいたひざ小僧を恨めしそうに見ながら、
パササは自分の荷物からポーションをだして少しだけ使った。
ポーションが、ふわりと傷口に溶け込んで癒していく。
大人ならすり傷程度に使うのはもったいない気もするだろうが、
ひざをすりむくと結構動いているときに痛いのだ。
「残ったポーション、ちゃんとふたしなきゃ……。」
と、言ってもこの丸い球体は一度開けてしまうともう一度封できないので困りものだ。
エーテルか何かの空き瓶があったので、とりあえずそこに入れておく。
こうしておくと、後でほぼ確実に中身がわからなくなって捨てる羽目になるのだが、
だからといってメモをつけようとは思わない。そこは子供の浅はかさである。
「できたぁ?」
「うん、オッケー。」
「じゃ、レッツゴー!」
改めて出発してから歩き続けること、10分。
ゴブリン一匹いない回廊の風景は変わることが無く、
飽き始めたころにようやく一つの扉が現れた。
飾り模様がついた取っ手の金属扉を開けると、そこには大きな鏡があった。
『うっわぁ〜……。』
思わず目を奪われて、プーレたちはそろって感嘆の声を漏らす。
それもそのはずで、その鏡は見上げるほどの大きさだった。
もちろんそれは彼らが小さいせいもあるのだが、そうでなくてもこれは巨大だ。
どこか大きな神殿でも、早々お目にはかかれまい。
人間なら大人2人分、オーガなら1人分と少しの丈がある。
貴金属や宝石で豪華に飾り立てられていて、
見る者が見なくてもかなり高価であることは想像できる。
キラキラと宝石がきらめき、様々な光を放つ。
“まぁ、こんなところにあったのね”
「なにガ?」
感慨深げにつぶやくサファイアに、パササが怪訝そうに聞いた。
“この鏡さ。うわさには聞いてたけど、でっかいねー……。”
「なんで石のくせに知ってるのぉ?」
六宝珠は自分では動けないのに、何でこんな鏡のことを知っているのか非常に疑問だ。
絶対に見たことが無いと思うのだが。
“いや、そこは長年の情報網で……って、これは内緒。”
「何それ……で、これはいったいなに?」
どこで聞いたかなどということはこの際どうでもいい。
気になるのは、この鏡本体のことだ。
“スペッキオ・ポルタ。直訳すると入り口鏡ね。
色々な世界に通じているらしいわ。”
それを聞いたプーレたちの耳がぴくりと動いた。
これを使えば、元の世界に帰れるに違いない。
「それいいね〜♪あ、プーレ。なんか変なこと書いてあるよ〜。
『束縛を知らぬものを捧げよ。』だってぇ。」
「よ、よく読めるねエルン!ぼく、ぜんぜん見たことないよこんな文字……。」
普段看板の文字などをしょっちゅうプーレに読ませるのに、
その彼が読めない文字をあっさりエルンが読んでしまったことに思わず驚く。
“これは世界で一番古い神の文字、始原文字だ。
今じゃ、それこそ神とか一部の種族にしか伝わってない文字だぞ。”
それを聞いて、プーレの目は点になった。
世界で一番神の文字というその言葉が、積み重なった歴史の地層並みに重い。
一体いつの文字見当もつかないが、気が遠くなる。
「ボクとエルンが住んでるグレイシャー島の文字だヨ〜。」
“あ……あそこはまだ使ってるのね。”
パサラは天界の獣・クリーニオンの末裔だから、知っていてもおかしくは無い。
エルンが知っているのは、多分カルンがパサラと交流があるからであろう。
グレイシャー島はその厳しい環境ゆえに外界から隔離されているため、
気が遠くなるくらい古い文字も残っているのかもしれない。
「へ〜……ねぇ、今度教えてくれる?そうしたらこういうのも読めるよね?」
“やめとけ……こんな文字、覚えても逆にあんまり意味が無いぞ。
もっと後の時代の文字の方がよっぽど役に立つ。”
興味を持ったプーレを、あきれたようにルビーがたしなめる。
始原文字はあまりに古すぎて、石版や石碑などでもお目にかかれることは極少ない。
その上読めたとしても、子供はおろか、
教養の無い大人も理解できない文だったりすることが多々ある。
種族によっては文字が特権階級だけの代物だった時代なので、
こんなことも平気であるらしい。
“まあ、その話はおいておいて……『束縛を知らぬもの』、ね。
ちょっと、私を袋から出してくれないかしら。
エルンちゃんが読んだ文を見せてほしいの。”
「うん、いいよ。」
道具袋からサファイアを取り出して、エルンが読んだ石版の前にぶら下げた。
いったいどこに目がついているのか気になるが、
とにかく見えることは見えるのだろう。
“……ふんふん、なるほど。”
「ねぇねぇ、どこにどこに目があるのぉ〜?」
エルンはかなり気になるらしく、
プーレが持っているサファイアのチェーンをつついて揺らす。
“気にしないで。それより、書いてあることをこれから言うわ。
石板にはこう書いてあったわ。”


『束縛を知らぬものをささげよ。
神の木に生る宝石は火を灯して扉を開き、
黒き海の孤島へ漂流者を届けるだろう。』


『なにこれー?』
聞いただけではさっぱり意味がわからない。
遺跡の仕掛けにつき物の、一種の謎かけだろう。
「あたし、むずかしいの嫌いだよぉ〜……。」
げんなりしてエルンがぼやく。
そのセリフには全員無言で同意した。
“そんなに騒ぐものでもないぞ。よくあるやつだ。”
“そうそう、一個ずつ説明するから。”
ずいぶん自信たっぷりだが、ちゃんとわかっているのだろうか。
いつもあまり当てにならないだけに、疑いたくなる。
「ちゃんとわかるように言えヨー!」
“もちろん。まず最初。『束縛を知らぬもの』だな。
これは実は言葉を変えると人間が好きなたとえと一緒なんだが……。
『自由なもの』のたとえといったら何か思いつくか?
いかにも自由気ままに生きてるってかんじの生き物だ。”
自由なもののたとえで、いかにも自由気ままに生きている生き物。
形が全然想像できず、頭の中がはてなマークで埋め尽くされた。
「……え?」
「何ソレ。」
どこがわかる説明なのだろうか。
いきなり嘘ついたのかと思い、思わず袋の中の彼らをにらむ。
“あなた達にはまだ難しいかもしれないわね。
それに人間とは全然生き方が違うから、想像もしにくかったかしら。”
「??」
“答えはそうね……『鳥』。よく、自由なものの象徴にされるから。”
答えは鳥だったが、答えを聞いてもプーレ達はいまだにぴんと来ない。
「鳥さんが?おいしいのにぃ?」
「おいしいとか言わないでよー……ぼくだって鳥なんだから。」
エルンの食欲に満ちた目を見て、思わずプーレはげんなりした。
別に彼女はチョコボといっているわけではないが、なんとなく嫌になる。
「えー、でもプーレだって時々鳥のモンスター食べるよネ?」
「だってあれは……チョコボじゃないし。」
たまに鳥系モンスターを食べても、
チョコボに似た姿をしているわけでもないので確かに平気で食べる。
気にするとしたら、食べすぎたらおなかを壊すかどうかだけだ。
人間は変に思うかもしれないが、猛禽が小鳥を平気で食べる理屈と同じである。
“鳥の味はこの際どうでもいい!次にいくぞ。
次は『神の木に生る宝石』だが……部屋の中になにかあるか?”
“奥にネクタリクサーの像ならあるね。”
部屋の奥に目を向けると、確かにそこには木の像がある。
色ガラスらしき物できていて、とてもきれいだ。
「あ、ほんとだ。あれがネクタリクサー?」
「きれいだけど、本物じゃないからヤダー……。」
そうぼやいたパササの気持ちは、なんとなくプーレもわかる。
ネクタリクサーは神話や昔話に出てくる木で、
どんな傷も治す霊薬・エリクサーと神酒・ネクタールの材料になると名高い。
が、それだけではなく、その実はどんな果物よりおいしいらしいのだ。
兄が話してくれたおとぎ話で知って以来、プーレはこっそり憧れている。
「食べられないもんねー。」
“だから食べ物から離れろ……。”
ルビーがうんざりしきった声でつぶやいた。
育ち盛りの食べ盛りに食べ物の話題から離れろといっても無駄と知りつつ、
そう言わずにはいられない。
食べ物の話は、残念ながらこの文章に無関係だからである。
「で、この食べられないネクタリクサーをどうするのぉ?」
「『神の木に生る宝石』だから……あ、ほんとに宝石がついてるね。
これをなにかにつかうのかな?」
今度はわかりやすそうだ。
最初からちんぷんかんぷんだったのでわかりっこないと思っていたが、
意外にわかりやすい部分もあるようだ。
“全部で6個か……。”
“おれ達と数が一緒だな。……関係ないだろうけどね。”
石板の文字が始原文字で書かれるような時代にはまだ岩の中だったので、
この宝石の数と六宝珠は関係が無いだろう。
宝石の色は、透明・青・紫・黒・緑・赤なので全部色がばらばらだ。
「あっちに変なお皿と棒があるよぉ〜。」
エルンが見つけたのは、
大きな台の上に載った小さな銀色の皿と、皿の上に立った長い棒。
棒の先には、小さなでっぱりがついている。
“あれは変なお皿と棒じゃなくて、燭台とろうそくよ。
ちなみに燭台っていうのは、ろうそくを立てるためのものなの。
あら?この宝石、下のほうに穴が開いてるわね。”
「あ、ホントだ。」
穴の開いた宝石と、でっぱりのついた変な棒。
この2つは何か関係ある気がしてきた。
「ちょっとむしってみよっとぉ。」
ぶちっとむしろうとつかんだら、すとんとそのまま手に収まった。
力任せにむしる気だったエルンは、ちょっと肩透かしを食らって目を丸くした。
「あれれぇ?」
“とりあえず全部むしってみればどうだ?”
「うん、わかった。」
エメラルドの言うとおりに、3人でネクタリクサーの像についている宝石を全部採った。
さて、ここからがまた問題だ。
“はまりそうかしら?”
「ウン、はまったヨー。でも、これ入れるところ1コしかないよねぇ?」
ためしにはめてみたのは、紫の宝石だ。
しかし、どこをどう見ても他にはめるところがないので、残りの5つが余ってしまう。
「そうだね〜、どうするのぉ?」
“う〜ん……鏡は全然使える状態にならないしなぁ。
先にそこの祭壇に、『束縛を知らぬもの』を捧げようか。”
祭壇は、鏡の前におかれていた。
ここに鳥を捧げればいいのだろうか。載せる所がずいぶん小さいのだが。
「ココに鳥?のっけられるノ?」
“誰も丸ごととは言っていないだろう?
祭壇に捧げるのは鳥の一部、たとえば羽だけでもいいはずだ。”
「でも、鳥の一部って……。」
鳥の羽の持ち合わせなんて、フェニックスの尾くらいだ。
だが、あまり持っていないので使うのはもったいない気がする。
そう考えているプーレをよそに、サファイアは意外な提案を出した。
“プーレ、あなたの髪の毛を使いましょう。
わたしは呪いを解いたりすることは専門ではないけれど、
あなたの体から離れた少しの髪の毛にかかった呪いなら浄化できるわ。”
「わかったけど……。あ、エルン、サファイアもってて。」
プーレはエルンにサファイアを渡してから、痛いのを承知で自分の髪の毛を1本抜いた。
髪の毛の呪いを解いて、本当に羽になるというのだろうか。
「どうするのそれぇ?」
「サファイアがこの髪の毛の呪いを解くんだって。」
髪の毛を、落とさないようにしっかりつまんでサファイアの前に差し出した。
“理に干渉せし、ありとあらゆる術を我は否定する。
時はその流れを曲げることなかれ、空間はそれを歪めることなかれ。
かりそめの形はあるべき姿へ。ディスペル。”
サファイアがすらすらと詠唱すると、プーレの髪の毛を取り囲むように赤い魔法陣が浮かぶ。
赤い魔方陣は2,3度くるくる回転して消え、
髪の毛は同じ色の柔らかい羽に変わった。
「ワ〜、スゴイね!」
「ほんとに羽になってる……。」
自分の羽根を見たのなんて、しばらくぶりだ。
ここのところ、チョコボの羽といえばくろっちのものばかりだったので、
自分の羽はこんなに小さかったのかとまで思ってしまう。
“これを捧げてみてくれ。これで変化がなかったら……また考えればいいだろ。”
「いいかげんだねぇ〜……。」
そうエルンがもらしたが、とにかく祭壇に羽を捧げてみた。
すると、鏡に波紋が広がり映像が浮かび上がる。
“ん……力が解放されたな。これでワープできるはずだ。
これは行き先が映っているのか?”
映ったのは見慣れない場所だ。あたりは薄暗く、荒地に近い場所のように見える。
見たことがないが、地界にも多分こんなところがあるのだろう。
「とにかく、いってみようよ。」
「ウン、そうしよ!エルンもオッケーだよネ?」
「おっけ〜♪」
これで帰れるのだから、もちろん全員意見が一致した。
六宝珠が荷物袋にきちんと入っていることを確認してから口を閉め、
少しどきどきしながら鏡に手を伸ばす。
するっとまるで水面に入れたように手がすり抜けた。
驚きながらも、3人は意を決して一斉に飛び込む。
これでもといた世界に帰れると信じて。



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今回は頭を使う仕掛けが登場です。頭使ってるのは六宝珠ですが。
子供に小難しい文章の理解は難しいですからね。
ポーションの残りを空き容器に移した後まで知恵が回らないのもご愛嬌です。
子供は大人以上に失敗を積み重ねて学習するんですよ。(何
今回は2〜3ヶ月も間が空くという、更新停止時期以来の最悪記録更新です。
トラブル続きのせいばかりにもできませんよこうなると。
つーかいい加減自分のむらっけどうにかしないと……。